「今日は九月二十六日。明日は学園祭の日。明後日はファイアストームの日」ー『イリヤの空、UFOの夏』補完その2

□浅羽についてー主人公たる資格とは

前回の続きです

○特別を持たない主人公
 主人公の浅羽直之は、伊里野とは対照的に、ほとんど正体がわからない。
 ここでいう正体とは、物語における強烈なキャラクター性を意味する。

 浅羽って、どんな奴?

 そう聞かれたら、読者はなんと説明するだろう。戦闘が強い、メンタルが強い、特殊な力がある、勇敢、仲間がいっぱい、実は王族の血を引く、面白い、優しい、モテる、カッコいい、運動神経抜群、部活の強豪校の選手、つらい過去を持っている――。

 いかがだろうか。このうち当てはまりそうなのは優しいくらいだと私は思うが、いわゆる主人公に当てはまる資質を浅羽はどれだけそなえていると言えるだろうか。
 浅羽の長所として文中で描かれているのは、散髪が上手い、優しい、たまに根性がある、そこそこ気が付く。このくらいだと思う。
 こうしたことから思うのは、何故、主人公が浅羽で、何故、こんな平凡なのだろうか。少しこれを考えてみたい。


○過去についてほとんど語られない
 こうしたヤング向けの小説の場合、主人公の過去や主人公の周辺の過去が物語に大きく関与することも多い。また、両親が何故かほとんど物語に出現せず、大人が排除された世界で、若いキャラが動き回ることが多い。
 しかしこの作品の場合、浅羽の両親は普通に出るし、浅羽の幼馴染はいないし、親友的なポジションも、あんまり本筋の話にはかかわってこない。
 その代わりとなったものを探す方が早いだろう。誰か。
 水前寺がいる。
 水前寺に関しては、実は次回で取り上げたいので、今回はあまり触れないが、もしライトノベル的主人公たる資質を持っているのは誰かと問われれば、水前寺となると思う。
 話を浅羽に戻そう。
 浅羽の過去がわかりそうなのは、妹の夕子を通じて。デリカシーのない兄としての浅羽像が浮かぶが、兄としての優しさも同時に浮かぶ。しかしそれではまだ伊里野とつり合いが取れているようには見えない。
 もう一つは、晶穂の回想。清美と晶穂へ暴言を吐く河口に浅羽が物申すという場面。ここでは勇気ある浅羽が登場している。
 しかし、実はここでもっと重要だと思われる、この作品の根幹ともいうべき描写がなされている。

ーなあ、さっきのあいつ誰だ? あんな奴うちのクラスにいたっけ?

 浅羽は新学年でクラス替えが為されたとはいえ、ほとんど周囲に知られていない。そして、さらに重要なのが、つぎの発言。

ーほら例の、新聞部の水前寺さんとかって人いるでしょ? あの人の後ろにいつもくっついて歩いてる……

 つまり、周囲にとって浅羽は水前寺の金魚の糞程度の認識しかされていない。なので、だれかが浅羽の過去について語ることはまず不可能である。
 その辺の、掃けば捨てるほどいる一介の中学二年生なのだ。
 もしそうなら、一時期流行しかけた「実は隠れた能力があって、力に目覚めた主人公はクラス内での立場がガラッと変わる」的なサクセスストーリーにぴったりな主人公だろう。
 しかし、そんな展開にもならない。
 むしろ、特別じゃない一介の中学二年生だからこそ、話が進展していく。


○誰にとっての特別なのか
 これに尽きる。
 少なくとも、ライトノベル史に燦然と輝く主人公像ではない。しかし、読者はあまり浅羽を主人公失格だとは思わないだろう。(まあ、4巻で嫌いになる人がいるのはわからないでもないけど)
 何も与えられていないからこそ、自分のできる範囲で、最良の行為を(考えなしにしても)行う。そこに親近感がわくし、なにか懐かしい香りもする。
 特別であるのは、伊里野に対してだけでいい。この辺は、秋山瑞人が物語をわかりやすくするためにそうしたのだろう。
 そのかわり、徹底して浅羽には見える事柄しか見せてこない。浅羽以外にもそうしているが、浅羽が知らないということが最終巻のあの話に通じてくるため、やはり計算しつくされている。
 4巻最初のほうで、秘密基地という言葉があった。
 誰しも少年時代に友人と作ったことがあるのではないだろうか。浅羽と伊里野の関係はまさしくそんな関係でつながっている。思春期特有の、自分は誰なのかという曖昧さ。だけれど、誰も知らない自分があってほしいと思う感情。

 それを特に何も持たない浅羽を用いて、伊里野といういわば幻想に近い存在で、関係性という観点から描いている。こっそりとした共通の秘密が、秘密基地という言葉の魅力。スタンドバイミー的郷愁と逃避行というロマンスは古い映画を想起させる。
 まあしかし、やり方を一歩間違うと単なる中二病ではあるが……。
 その中で描かれる無力感、挫折。しかし、それは浅羽のせいではない。周りの大人だって、どうすることも出来なかったのだから。
 伊里野にとって、浅羽が特別であればよかったということ。それが一番大事なことなのである。

 

ちょっと短いですが、ここで浅羽編は一時終わりです。
次は水前寺について。ここで、再び浅羽のあの論点に触れたいと思います。

 

「今日は九月二十六日。明日は学園祭の日。明後日はファイアストームの日」ー『イリヤの空、UFOの夏』補完その1

 今度こそネタバレを書こう。
 そう思っていた自分の中ではすでに幾星霜も過ぎたような感がある。気が付けば暦の上では3ヵ月が経過していて、セミの声もどこへ消えたか、いつしか夏も終わっていた。
 しかし、何かやり残したことがある。そんな気がしていた。そして気が付いた。そう、ブログを放置していた。
 まあ、別にいいか。そう思う。
 でも、こうも思う。
 終わる、ではだめだ。きちんと自分の手で幕を引こう。
 後者の思いが強くなって、書き始めてみた。「おくれてる」というセリフが、私に発破をかけてくるようにおもえてならない。
 なるほど。こういうことを彼は言っていたのだろうか。
 水前寺部長によかったマークだ。
 でも、だけど、
 おくれたってかまわない。今は、そう確信している。
 きっと、見ようとしなければ見えてこないものもあるとおもうから。
 


 恥ずかしいのはやめてちゃんと書きます。

 

 
 『イリヤの空、UFOの夏』については、デラべっぴんな評論やレヴューが多数あるので、じゃあ自分は何を書こうと悩んでいた、という言い訳が実はあるのです。しょうもない。
 結論から言ってしまえば、タイトルそのまま考えてみることにしました。つまり、『イリヤの空』『UFOの夏』が意味するところを自分なりに考えたつもりです。

 長いので、長文必死だなという人はブラバよろしくです。空白の後、始めます。

 

 

 

 

□『イリヤの空』- 伊里野とはなんだったのか

 

○別名「UFO綾波」、つまり、そういうことです。
 この作品のヒロインである伊里野加奈は、世界を救う能力を持つ、5人いた子供のうち唯一生き残っている少女。榎本や椎名たち、軍の「ロズウェル計画」の実行役であり、その作戦の一部である「子犬作戦」のターゲットでもある。
 これらの作戦や軍組織について、詳細は小説を読んでもらえば理解いただけると思うので割愛。

 

○伊里野加奈の特徴?
 性格的には真面目。ちゃんと学校のスク水を着用してキャップまでかぶる。字もきれい。定期毎の、軍への連絡は怠らない。校則どおり日曜日でも制服を着て浅羽とデート。なんていい子なんだ。
 年齢は、実は浅羽の一つ上。水前寺と同じ年ということになる。
 容姿。かわいい。
 人付き合いは苦手。「あっちいけ」
 頭もいい。勉強もちゃんとする。努力家。水前寺の言った原チャリの盗み方を翌日にはマスターしている。
 突拍子もないことをやりそうな神秘性。ラブレターに入部届。「浅羽がいるから」
 猫好き? 好き。

 

○小説内での描かれ方
 作品内での出来事などから、「イリヤの空」を考えてみよう。
 まず、イリヤはプールに行ったことがない。だから、泳げない。詳細は『グラウンド・ゼロ』にあるのでそちらを参照されたし。

 

 ・第三種接近遭遇。
 8月31日、イリヤの中では存在しているエリカにそそのかされ、園原中のプールに侵入。そこで、浅羽が泳ぎ方を教えてくれた。溺れそうになったのを助けてくれた。
 浅羽のことが、好きになった。
 至極単純、かつ、好感の持てる理由です。
 
 ・ラブレター
 伊里野の色々な面が見えてくる。
 周囲に溶け込めない。「みんな、死んじゃえばよかったのに」という発言。シェルターでの発作。浅羽がいるから。これ、告白してるよなあ。
 秋山瑞人自身の言った「難病もの」がまさにしっくりくる。入部届は読後、もう一度読み直すと、遺言状のようにも思える。

 

 ・正しい原チャリの盗み方。
 滅茶苦茶嬉しかったのだろう。10時集合にもかかわらず、5時50分から待ち合わせ場所で待ってる。浅羽と一緒に映画を見る。眠くても見る。
 この時点では、浅羽を巻き込みたくないという気持ちが強い。浅羽の、基地の仕事を手伝えないかという問いに、ぜったいだめと返した。
 尾行に気づく。逃走成功。やっぱり優秀だよ。
 公園。昔の話。誰にも内緒の話。浅羽に独白。「わたしたちはみんないらない子なんだ」という言葉。伊里野にも「誰かに必要とされること」が必要なのだ。
 学校で髪を切ってもらう。読後もう一度読み直してみると、結構な勇気を振り絞ったものだと思われる。

 

 ・十八時四十七分三十二秒。
 この話はあまり伊里野自体は表に出てこない。しかし存在感は凄い。ラストは圧巻。この構想が立って、イリヤを書き始めたらしい。
 旭日祭の11日前。軍が緊張状態。部室にセミが侵入。翌日、早退後、また学校に戻り浅羽と部室で会う。浅羽と一緒に何かしたいという気持ちが強い。ただ何も知らないから真似るしか出来ないとも言える。

 セミの死骸を見て、季節の終りを予感したのか、泣く。その後墓を作って帰る。
 榎本の前では「浅羽とガクエンサイをする」とか、嬉しそうに話したらしい。学園祭に行けない伊里野の失望は大きかったことがよくわかる。
 9月28日。ファイアストームの日。伊里野は前日同様学校に来られない。
 しかし、六番山へ浅羽を呼び出す。二人で踊る。真っ赤な顔して、不器用に踊っているという浅羽の予想はおそらく正しい。

 

 ・無銭飲食列伝。
 伊里野は秋穂が怖かった。でも負けるもんか、と勇気を振り絞った。それまでの他人に無頓着気味だった伊里野が、生命力あふれる行動をとった。必死になって「自分の居場所・理由」を守った。伊里野も大きく変化したことがうかがえる。

 しかし、伊里野は嘘が苦手っぽい。自分のであれ、他人のであれ、嘘には拒否反応を強く示す。無理をするのもそういうところから来てるのかもしれない。
 この時点で、「子犬計画」は概ね完成していたとみることが出来そうだ。

 

 ・水前寺応答せよ。
 約束を守らなかった伊里野を榎本がぶん殴って連れていく。当初の性格から成長し、一般社会に馴染みつつあった伊里野だったのに、このとき第一次破壊がなされ大変なことに。外見の大きな変化が発生。白い髪となったのは相当なショックと投薬の表れだろう。
 再び、他の人を頼ることが出来そうにないと悟ったのかもしれない。浅羽を巻き込まないような態度をとって別れる。
 症状が進行し始める。目が見えなくなる。浅羽に心配をかけたくないのか、それとも自分でもそれを認めたくないのか、必死に「見える」を連呼。きっと両方。発作が起こる。浅羽袋がばれる。自分のことで浅羽を殴る椎名を威嚇。「子犬作戦」はもう完成しているのだろう。
 夜。伊里野は部室で浅羽と会う。お守り(浅羽袋)について、本心を告げる。生きていたいという気持ちと、守らなければならないものとを秤にかけて、それでも生きたい気持ちが強くなってきていた。
 ここで初めて、伊里野自身の意思で、本当に浅羽を頼る。真似事ではなく、セカイ系とくくられることになる「君と僕」の関係が成立。ただし、それは「子犬作戦」からの逸脱であることを意味する。榎本的には別にそれでもよかったことを二人は知らない。

 

 ・夏休み再び。
 髪を切って、ついでに憑き物も落としたのか、明るい伊里野。浅羽に怒ってみたり、小馬鹿にしてみたり、猫飼ったり、幸福な日々を過ごす。嵐の前の静けさ。
 吉野とのシーン。自分は「なにもされてない」派。だって嘘つけないもん伊里野。
 必死に告げる。しかし浅羽の本心がわからない。警察登場。校長の件で浅羽にちょっと反抗。
 待っていた駅の側で待つ。口も利かない浅羽に呆然と立ちすくむ。泣きそうになりながら後を追いかける。「どうして、なぜ」を口にする勇気も出ない伊里野。冷たくされていきついた答え。
 「なんにもされてない」
 そして、浅羽の返事。伊里野は破壊された。内的な意味での第二次破壊が行われる。
 記憶退行が発生し始める。伊里野の中で、エリカ同様「浅羽」も加わった、ということなのだろう。ただし、エリカの場合は記憶改ざん、浅羽は記憶退行なので、まだ幾分かはましではあるが。

 

 ・最後の道
 退行していく中、浅羽にエリカのことを話す。海で、ついに、初めに行き当たる。
 「好きな人が、できたから」
 その後、気を失う。

 このときの伊里野を考えるととても悲しい。

 

 ・南の島
 投薬の成果もあってか、一応正気に戻る。記憶退行期間のことは覚えていない。
 浅羽の気持ちを知りたい。なんで、自分を、置いて行ったのか。伊里野は「浅羽」がいなかったと思い、浅羽は「伊里野」はもうそこにいなかったのだ、と思っている。すれ違い。
 浅羽の気持ちを聞く。それで十分。好きな人のため、伊里野は空に帰っていく。
 


○伊里野の気持ち、ほか
 こうしてみてみると、浅羽に対する伊里野の気持ちは一貫していることが良くわかる。疑いようもなく好きなのだ。
 陸では入部届、海では言葉、空ではダンスと己の命。セカイを構成する全ての場所で好意を伝えた。
 その想いは最後の最後で報われた。そうみなしてもよいのではないだろうか。
 伊里野とセットで出てくる存在として「セミ」がいる。間違いなく、秋山瑞人は意識して描いている。
 セミは生まれると土の中で長くを過ごす。ようやく成虫となると、3週間から1カ月を地上で、また、空で過ごす。その後、あっけなく土へ帰ってしまう。
 そのセミを重要な出来事の時には登場させる。うるさいくらいに鳴いていたり、死んでいたり、弱弱しく鳴いていたりする。そのことで読者に、伊里野と季節の相関関係を強く意識させ、物語の終りがそう遠くないことを悟らせている。
 
○ESPの冬、幽霊の春、UFOの夏、そして『イリヤの空
 こじつけ。しかし、上のすべてを伊里野と関係づけることが可能だ。
 ESP。これは、伊里野が持っている、他の人の持っていない、今となっては伊里野以外誰も持っていない特殊な力のことといえるでしょう。
 幽霊。エリカのことでしょう。
 UFO。UFO綾波。伊里野が乗っているブラックマンタはUFOと言えるでしょう。
 以上のことから、伊里野は、ある意味水前寺に呼応する形として、園原へとやってくることになったという考え方もありそうだ。
 そして、常に付きまとうのが、時間。
 作者本人の言う「難病もの」と時間について、ネットを漁っていたら、冲方丁による言及がありました。引用してみよう。

 時間について、以下のように言っている。

ノスタルジーをかき立てる作品に共通するのは、時間への抵抗である。否応なく時間が過ぎ去り、やがてある状況が終わってしまうことに唐突に気づき、何とか押しとどめようとする。あるいは過ぎ去ってしまったものに対し、その再現や追憶を求める。
 いずれにせよ抵抗自体は必ず失敗に終わる。誰も時間を押しとどめることも巻き戻すことも出来はしない。だがその抵抗自体は無益ではない。そうしなければ得られないものもあるからだ。それが何であるかによって、その作品のノスタルジーの行方が定まる。

引用: 冲方丁イリヤの空、UFOの夏』論,ライトノベルファンパーティより

それから、「難病もの」についてはこのように言っている。

 作者の秋山瑞人さん自身、「これは難病ものの変形」と言っていたが、病状認識の手順が溜め息が出るほど正確である。
 難病の進行において、ほとんどの者が、まず病状を否認し、そのために孤立に向かう。そして自分や他人に怒りを抱きつつ、取引に向かう。「何か素晴らしいことをすれば、病状が回復するに違いない」という取引行為である。これは全力で病状から逃避する行為である。その取引が無に帰すことで抑鬱に陥る。苦しい抑鬱が消え去ると、ようやく受容――多くの場合が心身疲労による思考停止が訪れる。その受容が過ぎ去って初めて、やっと本当の希望がかいま見える。その希望が何であるかは、その人のそれまでの生き方によって違う。その希望が見える人もいれば、見えないまま逝く人もいる。
 そうした過程が、ものの見事に『UFOの夏』では少年と少女の行方に重ね合わされるのだ。もはやそのディテール力は、鈍器のように読者を滅多打ちにする。読者を限定するというより、耐えられなくなる読者が続出したのではないか。そして、この作品の本当の意味での容赦のなさは、次の一文に端的に表れている。
 《だってそんなの、見届けるだけでもすごい勇気がいるしさ、途中で何気なく目をそらして耳も塞いで、最後にはどうせその子のことなんかきれいさっぱり忘れて最初から何もなかったことにしちゃうんだろうな絶対》
 こんなことを言われながら、主人公と読者は、「見るのも耐え難いものを見せられる主人公と読者」という役割を続けるしかないのである。これは難病に陥った患者の、友人や恋人や家族の役割である。
 そして永遠に続くことを願ったものが終わりを迎えるにあたって、ひときわ強くその凶器が振るわれる。

引用: 冲方丁イリヤの空、UFOの夏』論,ライトノベルファンパーティより

 タイムリミットの設定、苦しみからの解放、そして自由。

 自由になった伊里野は、空へと帰っていく。空は現実でも自由な空間のように私たちの目には映る。遮るものもない、人もいない。全てから解き放たれたとき、伊里野は空を飛び、我々はカタルシスを得る。伊里野はそうした存在として描かれたのである。

 濃密な2か月ほどの話の中で、その大半は伊里野について語られる。そして意外なことに、伊里野に比べて、浅羽についてはあまり詳細にはわからない。

 次回はその点について触れたい。

 そして、私が言いたいことにはもうひとつ、秋山瑞人は分かっていてこれをやっている、ということがある。つまり、全てを描き切るだけでなく、ちょっとした挑戦状を叩きつけている。

 言い方かえれば、ひねくれてる。

 そのためには、伊里野にはたくさん苦しんでもらう必要があったし、想像の予知を残しながら、伊里野という人間を好きになってもらう必要があった。

そのために、萌えのツボを抑え、ミステリアスな部分を残し、ラノベ的キャラクターを上手く作り上げている。

「いたいけ」と「幼児性」とを巧みに使い、ヒロインとしての伊里野に重責を担わせ、物語を難しそうな話から簡潔なほうへと運び、最後には伊里野と浅羽二人は気持ちを通じ合わせ、読者にカタルシスを与えたその手腕に、あっぱれといいたい。

 

 次に続く。浅羽編がやって来ます。

 

 

 

 

 

 

秋山瑞人『イリヤの空、UFOの夏』~「六月二十四日は、全世界的に、UFOの日だ」~

「おっくれてるぅ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!」

 

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出版年:2001-2003年

出版社:電撃文庫

著者:秋山瑞人

イラスト:駒都えーじ

巻数:全4巻

 

ライトノベルの傑作と聞かれて、皆さんはどんなタイトルを思い浮かべるでしょうか?

私は『イリヤの空、UFOの夏』です。

 

目次

その1

 第三種接近遭遇/ラブレター/正しい原チャリの盗み方-前編-/番外編・そんなことだから

その2

 正しい原チャリの盗み方-後編-/十八時四十七分三十二秒-前編-/十八時四十七分三十二秒-後編-/番外編・死体を洗え

その3

 無銭飲食列伝/水前寺応答せよ-前編-/水前寺応答せよ-後編-/番外編・ESPの冬

その4

 夏休みふたたび-前編-/夏休みふたたび-後編-/最後の道/南の島/エピローグ

 

 

熱狂的な信者を持つライトノベル・SF界をまたにかける男、秋山瑞人の名を天下に知らしめたこの作品『イリヤの空、UFOの夏』は、今なお6月24日になると聞こえる、不思議な叫び声の音頭を執り続けている。

彼らはこの日になると窓を開けて、

それからこう叫ぶ。

「おっくれてるぅ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!」

からり、とっ。

第1巻の記念すべき場面を真似して。

 

あらすじ

「6月24日は全世界的にUFOの日」新聞部部長・水前寺邦博の発言から浅羽直之の「UFOの夏」は始まった。当然のように夏休みはUFOが出るという裏山での張り込みに消費され、その最後の夜、浅羽はせめてもの想い出に学校のプールに忍び込んだ。驚いたことにプールには先客がいて、手首に金属の球体を埋め込んだその少女は「伊里野可奈」と名乗った…。おかしくて切なくて、どこか懐かしい…。ちょっと“変”な現代を舞台に、鬼才・秋山瑞人が描くボーイ・ミーツ・ガールストーリー、登場。

(出典:「BOOK」データベースより)

 

主な登場人物

浅羽直之 ― 主人公。園原中学校2年生。

伊里野加奈 ― 8月31日夜中に学校のプールで出会った少女。転校生。謎が多い。

須藤晶穂 ― 浅羽のクラスメイト兼同じ新聞部員。気が強い。

水前寺邦博 ― 3年生。園原電波新聞部部長。季節ごとに興味の対象が変わる男。

榎本 ― 謎の男。自称・伊里野のお兄さん。アジア一危険な男。

椎名真由美 ― 美人保健医。伊里野とも関係あり。

 

感想

秋山瑞人は天才だと思う。

理由①

ちゃんと完結させたのがこの作品と『猫の地球儀』と『鉄コミュニケイション』くらいしかない

理由②

 『E.G.コンバット』も『ミナミノミナミノ』も『DRAGONBUSTER』も続きが出なくてもめげないファンがいる。あと『空』と『海』はでたけど、『陸』が出ない

理由③

この10年で2冊も出している。すごい。EGFマダー?

 

と、おふざけはこのくらいにして。

イリヤの空、UFOの夏』は、「最高のライトノベルといえば?」という投票があったら、1位として上げられることの多い作品です。

先ほどから言っている秋山瑞人なる人物こそ、この作品の著者。そして、そのファンは「瑞っ子」と(自ら?)呼ばれています。私も「瑞っ子」です。

その遅筆さに放置を食らい、忘れかけたころに次の巻が出て、また次の餌を食卓の椅子に座って待ち続けるという、いわば修行ともいえる時代を再び過ごしています。

おっと、本題。

ライトノベルというと「ちょっとなー」と思う人も多いことでしょう。レジでは表紙を見せずに、裏側にして店員に渡す人もいるそうですね。

しかし、この作品はそれでもいいから読んでほしい作品です。

若い子からおっさんまで楽しめるはず。なぜなら、「誰しもが知っている」「大人になっても忘れることのできない」「思春期特有の高潔な精神と惰弱な現実」といった要素がふんだんに盛り込まれているからです。

ライトノベルは、いわば若い子のポルノだ。そんなイメージを持たれている方にも読んでみてほしいですね。そんなことをいっている人ほど、自分の学生時代のような胸きゅんにやられて、しまいには読み終わって魂が抜けたまま仕事に行く羽目になることでしょう。

文体は好き嫌いが別れるかもしれません。私は大好きですが、地の文よりもたくさんのシーンを楽しみたいという人には向かないかもしれません。逆に、ちょっとした諧謔や上手に誘導する文章が読みたい人にはおススメの作品です。

何度も読み直すたびに何度も発見があって、毎年読んでも苦痛に感じることはありません。年を取って読み直してみると、感情移入するところが変わっていたり、登場人物についてのとらえ方が変わったりして、それも楽しみの一つといえるでしょう。

 

自分が思うこの作品の素晴らしいところは、たくさんありすぎて語りつくせませんが、ここでは冒頭の書き出しを上げておきたいと思います。

 

めちゃくちゃ気持ちいいぞ、と誰かが言っていた。
だから、自分もやろうと決めた。
山ごもりからの帰り道、学校のプールに忍び込んで泳いでやろうと浅羽直之は思った。

――『イリヤの空、UFOの夏その1』

この3つの文章だけで、始まりがどんな場面、どんな場所なのかがはっきりとわかります。

場所は学校のプールですね。そして、「忍び込む」ということは、少なくとも昼ではなく、夜か早朝。ですが、「山ごもりからの帰り道」というところから、夜だろうと簡単に理解できます。

ぶっちゃけてしまえば、最初の一文だけでも出だしとしては十分な情報量ではあるんです。凡庸な作者であれば、それで終わらせてさっさと本文のシーン描写に移ることでしょう。

しかし、素晴らしいのは二文と三文。これがあることで、読者に感情移入と場面理解を挿せるようになっています。解説してみると、

 

最初の文は「伝聞」→何の?→「気持ちいいという状態」→「何が気持ちいい?」

次の文は「上記の理由から」→「決断」→「主人公の性格付け」→「で、何をするの?」

そして最後の文で「具体案」→「学校のプールに忍び込んで泳いでやろう」→「主人公の名前」

 

これだけで一気にその世界が見えてくるのです。そして、ここまで短い文で魅せられる作家もそう多くはないでしょう。

秋山瑞人は他の作品にも素晴らしい出だしと、シメが多いのが特徴的で、私なんかは『猫の地球儀』の最初の数ページだけで泣いたこともあるほどです。

 

ああ話がまとまらない。

 

とりあえず、まだ手に取ったことのない方は是非読んでみてほしい作品です。

あ、あと忘れてました。この作品は笹本祐一さんの『妖精作戦』の影響を受けています。『妖精作戦』は秋山先生以外にも、『涼宮ハルヒの憂鬱』で有名な谷川流、『第六大陸』の小川一水、『図書館戦争』の有川浩、といった面々にも影響を与えており、こちらも読んでみるとその影響を見て取れると思います。

特に『イリヤ』はかなりオマージュしているので、『イリヤ』を読んだ後に『妖精作戦』を読むととても面白いですよ。

あと、季節は夏とはいっても、9月から10月にかけてがメインです。プールは8月31日ですが、物語の期間的には2か月ほどです。これだけの期間の話なのに、この話から抽出できるモノはすさまじいものがあります。どれだけ構想を練ればこんな話をかけるのだろう。驚きです。

ネタバレはもう一つ投稿するそっちの記事で書く予定なので、こちらはあっさりとしたところで終わらせたいと思います。

最後までありがとうございました。

 

 

『フィリッピーナを愛した男たち』(1992年)ドラマ(映画)

 かなり間が開いてしまいましたが、元気でやってます。

 

 さて、今回はドラマ。

 ドラマといっても連続ドラマではなく、テレビ映画のような一話完結の作品です。

 Youtubeの「チャンネル桜」様にて、視聴することが出来ます。

 

 

『フィリッピーナを愛した男たち』

 

放送日:1992年12月11日

制作:フジテレビ

監督:水島聡

主演:玉置浩二ルビー・モレノ

 

あらすじ

 ふとん屋の営業マン敏夫(玉置浩二)は、借金が嵩んで妻に逃げられてしまう。その寂しさを紛らわすために立ち寄ったフィリピンパブで、マニラ出身のルビー(ルビー・モレノ)と出会う。福島に母(中村玉緒)を残して上京した敏夫と、フィリピンに家族を残して出稼ぎに出てきたルビーは、寂しさを共有しながら 互いに惹かれ合っていくが...

(引用:https://www.youtube.com/watch?v=AMBQgLotsso

 

感想

 放送されたのが1992年ということで、バブルの余韻が残りつつも、その酔いも冷めてきた頃合いです。

 私は当時生まれたばかりなので詳しい状況については知りえていませんが、当時は「ジャパユキさん」なんて言葉があったように、日本に出稼ぎにきたアジアの人たちと結婚した人もいたそうですね。

 それとは別に、外国で売春をしているサラリーマンもそれなりにいたと聞きます。

 今はどこの国でも厳しい取り締まりが行われているそうなので、あまりそういう話も聞かなくなりましたね。

 

 さて、この作品についてですが、私が興味を持ったきっかけをまず簡単に。

 私は玉置浩二の大ファンです。歌はもちろん、その演技にも朴訥なところが出ていて、とても好きです。ただ、この時期の玉置浩二といえば、安全地帯の活動停止、セールスがかなり落ち込みを見せ、健康問題では病気を患ることもあったようで、かなり消耗していたようです。

 その玉置さんはこの時期から「俳優」としての露出がかなり増えていきます。そして、そのどれもが印象的な演技でした。例えば1994年の『最後の弾丸』と『夢の帰る場所』なんかは本当に何度見ても圧倒されます。

 『夢の帰る場所』は『フィリッピーナを愛した男たち』の監督、水島聡さんが脚本を務められており、この作品も素晴らしいですがまたそれは後で。先に『夢の帰る場所』を視聴していたこともあり、同じ人が制作しているのなら、と『フィリッピーナを愛した男たち』にも興味を持ったというわけです。

 

 やっと本題。

 とても面白く、時にはほろりと観させていただきました。

 主人公の日本人である敏夫と、ヒロインであるルビー、そして敏夫の母親がとても印象的です。玉置浩二がああいう役を演じると、本当に素晴らしい。

 とても好きな場面は、ルビーが風鈴を持ってきた場面です。主人公の敏夫に感情移入している視聴者は「何故のこのこと来られるんだ!」と憤る場面です。しかし、この風鈴を持ってくるということは、少なくともルビーは日本の夏をしっかり知っている。文化を受け入れて認めていることがわかります。

 逆にどうでしょう。当時の日本からしてみれば、フィリピンは自分たちよりも遅れた国。その国の文化をしっかりと受け入れられた人は当時どれだけいたでしょう。最終的には、敏夫はフィリピンに骨を埋める覚悟で結婚します。それによって、フィリピンという国を受け入れたとみることが出来るでしょうね。

 他にも、今作品内ではかなりわかりやすく対比がなされています。男と女、日本とフィリピン、家族に対する扱い等々。

 フィリピン人について。「嘘つきで、怠け者だ」という人がいる。家族のためには、自らをビジネスに使ってでも助けようとする。ある意味一生懸命といえますね。堕胎することは禁止されている。カトリックが多いですからね。フィリピンは徹底して貧乏のように描かれています。それでも、みんなで分け合って仲良くしている。結婚も親の了承が必要。ただ、敏夫を売って店を手に入れたような輩もいます。

 日本人について。「浮気で、騙される」という人がいる。母親の財産を結局のところ、食いつぶしている。敏夫は結果的に母親の資産を借金返済や結婚式の費用で使ってしまっていますね。お金で問題を解決しようとしている。空港で、「足りなければまた払うから」と去っていくサラリーマンがいました。日本人同士で喧嘩のシーンもありましたね。玉置浩二がぶん殴られて、ルビーは男とタクシーに乗っていく。結婚は親に言うこともなく決めるし、離婚も事後報告。騙されて店を失うなんていう人もいます。

 それでも、敏夫が憎めないのは彼自身が騙され、嫌な目にあっても、ルビーのことだけを追い求めたからなのでしょう。

 二人の考えかたの違いも面白い。

 ルビーは最初、敏夫に「LOVEとちがうよ」といいます。ビジネスでそういうことをしている彼女ですが、嘘をついているわけではない。結婚しているわけでもないし、自分は自分で、自分のことを決める権利は自分にある。だから、一方的に俺の女になれというような考えは受け入れられない。

 敏夫は金を払っているのだから、と迫りました。でも、ビジネスのつもりではないのでしょうね。結婚していたわけではないけど、そういう関係になったし、恋人だと思っているから、他の男とビジネスでも付き合ったりしているのは許せない。でも、ルビーに底から惚れているので、わざわざ追っかけて行って最終的にはすべてを受け入れる。

 そして、なんといっても、中村玉緒の演じる母親がいいですね。敏夫のことをずっと心配していて、それでも幸せを祈っている。この点では家族を思うルビーと共通で、女性を端的に描いているのでしょう。

 対して、男性はかなり自分勝手な人ばかりでしたね。大谷直子が演じる女性も「昔の男がきたから日本に行く。失敗したらまた返ってくるかも」なんてことを言っています。もっと早く来てやんなよ……。

 

 ラストシーン。たくさんの子供たちとルビーと一緒にいる敏夫。これは『夢の帰る場所』とは対照的です。

 『夢の帰る場所』はネタバレになってしまうのでここでは特に言及しませんが、興味を持たれた方は視聴することをおススメしておきます。素晴らしい作品です。本田美奈子さんのご冥福をお祈りいたします。

 

 『フィリッピーナを愛した男たち』は原作があるようです。 久田 恵によるルポとして文春文庫から出版しています。こちらも後で読んでみたいと思います。

 

www.amazon.co.jp

 

 

 

 最後までご覧くださってありがとうございました。

 更新は不定期になりそうですが、良かったらお付き合いください。

 

 

 

 

 

xiaomi MI6が正式発表!4月28日発売!

getnews.jp

 

本日、Snapdragon 835を搭載した、Xiaomiの「MI6」が正式発表されました。

日本だとあまり知られていないXiaomiですが、世界的には結構売れています。以前ほどの勢いはありませんが、安価で高性能の製品を出し続けている点は日本企業も見習う必要がありそうです。

 

すでにインターネット販売サイト「GearBest」では「MI6」の在庫の予約分がはけてしまったようです。↓

www.gearbest.com

 

欲しい人は早めにチェックしておいたほうがいいみたいです。

 

発売日:4月28日

 

価格:64GB ― 2499元

   128GB ― 2899元

   Mi 6 Ceramic Edition(セラミックモデル) ― 2999元

 

 

 

スピッツ ハヤブサ その② 全体感想 

lonleylonely.hatenadiary.jp

 

その①の続きです。かなり妄想と考えすぎな要素が塗してあるので、興味ない方はブラウザバック推奨。長いです。

 

全体感想

これはコンセプトアルバムなのでは? と思ってしまうのは自分だけかしら。何を根拠にそんなことを言うのかというと、ほぼすべての曲で歌詞の中に「生(性)と死」が見え隠れしており、煌びやかにその対比が浮かんでいるためです。

まずアルバムの季節は夏ですね。そして季節は移ろい、「ハートが帰らない」では春、最後の「アカネ」では夏から秋になっていると思います。茜色、茜空といえばやはり秋空のこととなるでしょう。

最初の曲「1.今」では以下のような歌詞があります。

いつかは 傷も夢も忘れて

だけど息をしてる それを感じてるよ今

出典:スピッツハヤブサ』より

「今」とくれば、「いつか」も存在しています。その「いつか」は、「傷も夢も忘れ」るという、やや引っかかる歌詞です。そして「今」というと、「息をしてる」んですね。息をしていることを感じるのであれば、背後には「死」があるということがわかります。

では「いつか」忘れられる傷や夢とは、何時負った傷や夢だったのでしょう。それは、はっきりとは分かりませんが、先ほど引用した「息をしてる」のをわざわざ感じている以上、「死」が関わっているのだと考えられます。

それを感じさせる歌詞または印象があるのは「2.放浪~」「3.いろは」「4.さらば~」「5.甘い手」「6.Holiday」「8.宇宙虫」「9.ハートが帰らない」「10.ホタル」「11.メモリーズ・カスタム」「12.俺の赤い星」「13.ジュテーム」「14.アカネ」です。ほとんどすべて。

そう思う箇所を引用してみます。

2.放浪~ ― "オチは涙のにわか雨”

3.いろは ― ”波打ち際に 書いた言葉は 永遠に輝くまがい物”

4.さらば~ ― ”半端な言葉でも 暗いまなざしでも なんだって俺にくれ! 悲しみを塗りつぶそう” ”会えそうで会えなくて 泣いたりした後で 声が届いちゃったりして”

5.甘い手 ― ”遠くから君を見ていた いつもより明るい夜だった”

6.Holiday ― ”もしも君に会わなければ もう少しまともだったのに” ”君を探そう このまま夕暮れまで” ”心の扉を 痛みこらえ開けたよ”

8.宇宙虫 ― 歌詞がない。

9.ハートが~ ― 全部が全部当てはまるので省略。

10.ホタル ― ”時を止めて 君の笑顔が 胸の砂地に 浸み込んでいくよ” ”正しいものはこれじゃなくても 忘れたくない 鮮やかで短い幻” ”生まれて死ぬまでのノルマから 紙のような翼ではばたき どこか遠いところまで” ”それは幻”

11.メモリーズ~ ― ”あなたのために蝶になって 飛んでゆけたなら” ”嵐が過ぎて 知ってしまった 追いかけたものの正体”

12.俺の赤い星 ― ”一度だけ現れる 誰にでも時が来れば あくびするフリをして空を見た” 

13.ジュテーム? ― ”君がいるのはイケナいことだ 悩みつかれた今日もまた”

14.アカネ ― ”ゴミに見えても 捨てられずに あふれる涙を ふきながら” ”身体のどこかで 彼女を想う また会おうと言った 道の上”

出典:スピッツハヤブサ』より

 

 ……無理がありますかね(^-^;

まあ続き。

 少し本題からずれますが、「Holiday」と「ジュテーム?」の歌詞はネット上で、以下のように考えられているのをよく目にします。

Holiday ― ストーカーソング。

ジュテーム? ― 不倫の歌。

たしかに、そう考えるのが自然だと思います。が、私はへそ曲がりですので同じようには思いたくありませんでした。そこでいろいろ考えた結果が、上にある「生(性)と死」を、曲単位ではなく、アルバム単位での煌びやかさとしてとらえることでした。

つまり、コンセプトアルバムと考えることによって、一つ一つの曲の歌詞がすべて一つの世界や出来事を表しているのだ、というものです。

 

私の中にある大体のあらすじは以下の通りです。

・男は女に片思いをしていた。おそらく幼馴染。その後、二人は恋仲になる。

・夏にいろいろな思い出を作った二人。海にも行った。そこで来年もまた来るという約束をする。しかし、突然の別れがやってきた。

・彼女の死。

・落ち込む男。思い出を何度も辿り、ずっと忘れられない永遠の存在者を追いかけ続けて、迷い続ける。

・そこに、彼女が……。

・幽霊となって現れたのだった。

 

トーカーという見方も可能ですが、こっちのほうがロマンチックじゃないかな? ということで、「幽霊説」です。

そして、その際に考慮するのが、アルバムの曲順が時系列順なわけではないということです。区分けしてみると以下のとおり。

 

生前 ― 3.いろは、4.さらばユニヴァース、7.8823

死の瞬間 ― 5.甘い手、8.宇宙虫

死後 ― 2.放浪カモメはどこまでも、6.Holiday、9.ハートが帰らない、10.俺の赤い星

幽霊 ― 11.ホタル、12.メモリーズ・カスタム、13.ジュテーム?

その後 ― 1.今、14.アカネ

 

こんな感じだと考えました。細かいストーリーとしては、以下のような感じ。

 

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スピッツ ハヤブサ その① 紹介・評価

Amazon.co.jp: スピッツ, 草野正宗, 石田小吉 : ハヤブサ - ミュージック

 

発売年月日:2000年7月26日

週間最高順位:3位

売上:36.8万枚

2000年度のアルバム売上枚数:年間56位

 

※注意

独断と偏見による歌詞考察をしています。「おめえの妄想なんか見たかねえ」って人は その②全体感想 を飛ばしましょう。

 

本人たちの意向を無視したベストアルバム『RECYCLE』が発売された後、最初に発表されたアルバムです。9枚目のオリジナルアルバムは、それまでのスピッツとこれからのスピッツを大きく印象付けました。

 

曲目(青字はシングル曲)

  1. 放浪カモメはどこまでも album mix
  2. いろは
  3. さらばユニヴァース
  4. 甘い手
  5. Holiday
  6. 8823
  7. 宇宙虫
  8. ハートが帰らない
  9. ホタル
  10. モリーズ・カスタム
  11. 俺の赤い星
  12. ジュテーム?
  13. アカネ

 

作品紹介

収録シングルは 2.放浪カモメはどこまでも、10.ホタル、11.メモリーズ の三曲。ただし、2.放浪カモメはどこまでも、11.メモリーはアルバムverとなっています。

前年に『RECYCLE』が発売され、売上を伸ばしていた時に発売された『ハヤブサ』は、大きく変化したスピッツ像を描いていました。

話は遡り1998年、前作『フェイクファー』でメンバーは大いに苦しんでいました。一つ目はリスナーとメンバーの乖離です。スピッツについて、世間のイメージは「ポップな、優しい、棘のない」といったものです。しかし、本人たちはもともとロックやパンク志向で、そのイメージとの乖離に苦しんでいたそうです。(以前紹介したWANDS上杉昇WANDS時代を「アイドル」時代と例えていた、というのと被りますね)

もう一つはスランプに陥ったということです。ギターの三輪テツヤは急に引けなくなったこともあるそうな。ただし、この時の苦労は後に、ライブバンドとしてのスピッツを築いていくのに必要なものだったと今は思えます。その後、『RECYCLE』の発売。これは割愛しますが、大きく影響を与えたことは間違いないでしょう。

 

そして、『ハヤブサ』です。シングル『メモリーズ/放浪~』でリスナーは「?」となった後、『ホタル』で切ないスピッツを再確認。さて、どう来るか。そこでスピッツが示した姿は「ロックバンド・スピッツ」でした。

 

曲の感想

特に記載のない場合、作詞・作曲:草野正宗、編曲:スピッツ&石田小吉

 

 

 1.今

名刺代わりの一曲。いきなりロックな曲がこのアルバムの開幕を告げます。おや?なんか変だぞ? となったリスナーは、すぐこのアルバムに意識を持っていかれたことでしょう。私もその一人でした。


 2.放浪カモメはどこまでも album mix

またもやロック。実はドラムがすげえとなる曲。それでもしっかりとメロディを聞かせるところはスピッツらしい。このあたりで、アルバムの方向性が分かってくるのではないでしょうか。


 3.いろは

打ち込みから入ってくるスピッツにしては珍しい曲。ガンガンと攻めてきています。歌詞の語感が素晴らしく、草野マサムネという詩人の魅力が詰まっている曲です。


 4.さらばユニヴァース

ここで少しペースダウンです。それでも、まだまだポップではなくロック。切ないメロディに乗せる切なく、よくわからない歌詞。隠れた名曲です。


 5.甘い手

一転、バラード系の曲を入れてきました。そして、スピッツには珍しい6分を超える曲です。ブリティッシュぽいメロディに、マサムネの高音が調和した壮大な曲。


 6.Holiday  編曲:スピッツ石田小吉&クジヒロコ

ヤバイ曲。何がやばいかというと歌詞がヤバイ。完全にス〇ーカー。歌詞については全体感想で触れることにします。この曲はアップテンポなメロディがたまらなく狂おしい。ようやくポップな曲が来てファンは安堵したのかな? ファンよりも、普通のリスナーのほうが安堵したのかもしれないですね。このアルバムで2番目にお気に入りの曲。

 

 7.8823

今やライブの定番曲。ブリティッシュロックを想起させる曲で、カッコいいスピッツといえばこの曲を挙げます。静かな入りからサビでギター炸裂!癖になる曲です。


 8.宇宙虫 作曲:三輪徹也

インストゥルメンタル。これまでの騒めきが嘘のようにしんみりと聞かせます。考察をする際に、このアルバムのカギを握る曲だと私は踏んでます。


 9.ハートが帰らない

デュエット曲。切ない感じのする曲です。そして、確実に何かが起こったことを告げている歌詞。サビが圧巻で、とてもいい仕上がりになっていると思います。


 10.ホタル

アルペジオが美しい。ホタルというタイトルがまさにドンピシャの名曲です。せつなくて、それでいて力強い。歌詞が心に突き刺さります。


 11.メモリーズ・カスタム  作曲:草野正宗石田小吉

シングルの『メモリーズ』からロックな方向に進化しました。大サビが加わり、迫力が増しています。でも、私が一番聞いてほしいのはドラムです。めちゃくちゃカッコいいです。崎山さんは隠れた実力者であるということが、一発でわかるロックな曲。

 

 12.俺の赤い星  作曲:田村明浩

ベースのリーダーこと田村作曲。相変わらずロックだー。しかし、歌詞は少々含むところが有り気。ヘヴィな演奏がカッコいい曲です。


 13.ジュテーム?  編曲:スピッツ石田小吉 & 甘健民

マサムネの弾き語りと二胡を用いた切ない名曲。タイトルはフランス語で「愛しています」という意味。また、歌詞がすごい曲で解釈が難しい。感動する曲です。


 14.アカネ

最後を飾るのは「アカネ」。メロディアスで切ない、それでいて強い、そんな一曲。歌詞が大変に素晴らしく、私はスピッツの中で一番好きな曲です。スピッツの魅力がすべて詰まっています。美しい歌詞、ギターのアルペジオ、歌うベース、聴かせるドラム、そして澄んだボーカル。今でも何かあるとこの曲をよく聞きます。

 

 

評価

歌詞:測定不能/10

曲:10/10

演奏:10/10

歌唱:10/10

お気に入り度:測定不能/10

総合:測定不能/50

 

(評価になっていなくてごめんなさい!)

 

その②に続きます。良かったら見てください!

 

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