スピッツ ハヤブサ その② 全体感想 

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その①の続きです。かなり妄想と考えすぎな要素が塗してあるので、興味ない方はブラウザバック推奨。長いです。

 

全体感想

これはコンセプトアルバムなのでは? と思ってしまうのは自分だけかしら。何を根拠にそんなことを言うのかというと、ほぼすべての曲で歌詞の中に「生(性)と死」が見え隠れしており、煌びやかにその対比が浮かんでいるためです。

まずアルバムの季節は夏ですね。そして季節は移ろい、「ハートが帰らない」では春、最後の「アカネ」では夏から秋になっていると思います。茜色、茜空といえばやはり秋空のこととなるでしょう。

最初の曲「1.今」では以下のような歌詞があります。

いつかは 傷も夢も忘れて

だけど息をしてる それを感じてるよ今

出典:スピッツハヤブサ』より

「今」とくれば、「いつか」も存在しています。その「いつか」は、「傷も夢も忘れ」るという、やや引っかかる歌詞です。そして「今」というと、「息をしてる」んですね。息をしていることを感じるのであれば、背後には「死」があるということがわかります。

では「いつか」忘れられる傷や夢とは、何時負った傷や夢だったのでしょう。それは、はっきりとは分かりませんが、先ほど引用した「息をしてる」のをわざわざ感じている以上、「死」が関わっているのだと考えられます。

それを感じさせる歌詞または印象があるのは「2.放浪~」「3.いろは」「4.さらば~」「5.甘い手」「6.Holiday」「8.宇宙虫」「9.ハートが帰らない」「10.ホタル」「11.メモリーズ・カスタム」「12.俺の赤い星」「13.ジュテーム」「14.アカネ」です。ほとんどすべて。

そう思う箇所を引用してみます。

2.放浪~ ― "オチは涙のにわか雨”

3.いろは ― ”波打ち際に 書いた言葉は 永遠に輝くまがい物”

4.さらば~ ― ”半端な言葉でも 暗いまなざしでも なんだって俺にくれ! 悲しみを塗りつぶそう” ”会えそうで会えなくて 泣いたりした後で 声が届いちゃったりして”

5.甘い手 ― ”遠くから君を見ていた いつもより明るい夜だった”

6.Holiday ― ”もしも君に会わなければ もう少しまともだったのに” ”君を探そう このまま夕暮れまで” ”心の扉を 痛みこらえ開けたよ”

8.宇宙虫 ― 歌詞がない。

9.ハートが~ ― 全部が全部当てはまるので省略。

10.ホタル ― ”時を止めて 君の笑顔が 胸の砂地に 浸み込んでいくよ” ”正しいものはこれじゃなくても 忘れたくない 鮮やかで短い幻” ”生まれて死ぬまでのノルマから 紙のような翼ではばたき どこか遠いところまで” ”それは幻”

11.メモリーズ~ ― ”あなたのために蝶になって 飛んでゆけたなら” ”嵐が過ぎて 知ってしまった 追いかけたものの正体”

12.俺の赤い星 ― ”一度だけ現れる 誰にでも時が来れば あくびするフリをして空を見た” 

13.ジュテーム? ― ”君がいるのはイケナいことだ 悩みつかれた今日もまた”

14.アカネ ― ”ゴミに見えても 捨てられずに あふれる涙を ふきながら” ”身体のどこかで 彼女を想う また会おうと言った 道の上”

出典:スピッツハヤブサ』より

 

 ……無理がありますかね(^-^;

まあ続き。

 少し本題からずれますが、「Holiday」と「ジュテーム?」の歌詞はネット上で、以下のように考えられているのをよく目にします。

Holiday ― ストーカーソング。

ジュテーム? ― 不倫の歌。

たしかに、そう考えるのが自然だと思います。が、私はへそ曲がりですので同じようには思いたくありませんでした。そこでいろいろ考えた結果が、上にある「生(性)と死」を、曲単位ではなく、アルバム単位での煌びやかさとしてとらえることでした。

つまり、コンセプトアルバムと考えることによって、一つ一つの曲の歌詞がすべて一つの世界や出来事を表しているのだ、というものです。

 

私の中にある大体のあらすじは以下の通りです。

・男は女に片思いをしていた。おそらく幼馴染。その後、二人は恋仲になる。

・夏にいろいろな思い出を作った二人。海にも行った。そこで来年もまた来るという約束をする。しかし、突然の別れがやってきた。

・彼女の死。

・落ち込む男。思い出を何度も辿り、ずっと忘れられない永遠の存在者を追いかけ続けて、迷い続ける。

・そこに、彼女が……。

・幽霊となって現れたのだった。

 

トーカーという見方も可能ですが、こっちのほうがロマンチックじゃないかな? ということで、「幽霊説」です。

そして、その際に考慮するのが、アルバムの曲順が時系列順なわけではないということです。区分けしてみると以下のとおり。

 

生前 ― 3.いろは、4.さらばユニヴァース、7.8823

死の瞬間 ― 5.甘い手、8.宇宙虫

死後 ― 2.放浪カモメはどこまでも、6.Holiday、9.ハートが帰らない、10.俺の赤い星

幽霊 ― 11.ホタル、12.メモリーズ・カスタム、13.ジュテーム?

その後 ― 1.今、14.アカネ

 

こんな感じだと考えました。細かいストーリーとしては、以下のような感じ。

 

 7.8823 ― 今までの関係にサヨナラできるか。男は幼馴染に告白をする決意をした。普通のやり方でいいと風は告げてくるが、男は男のやり方で実行することに。愛かそれとも絶望か。結果がどちらでも自分の想いを伝える!

3.いろは ― 二人でたくさん思い出を作った。それは、まるで永遠のように思える時間だった。でも言葉以外にも愛を伝える方法はある。その時、彼女は今まで以上の愛というものをくれるのだろうか。今日が言葉を超える、記念すべき「愛のいろは」の始まりの日だった。

4.さらばユニヴァース ― いい思い出だけじゃなく、嫌なことだって二人にはあった。でも嫌なことだって、男にとっていい思い出。彼女はどう思うかは分からないが、同じだと思う。会えない時でも、二人はきっとつながっている。結婚。そんな夢みたいな日には、彼女が望むようないいことも嫌なことも思い出になるようにつないでいく。

 

 5.甘い手 ― いつもより明るい夜。彼女は離れた場所にいた。時の止まるような一瞬に、言葉もなく、想いを記号として伝える間もなかった。光に紛れて彼女が消えた。今になって思うのは、こんなことになるなら愛を知りたくなかった。甘い、そんな温かいその手で触れて、また愛を教えてほしい。そんなことだけだった。彼女の命を明日へとつなげているのは、心電図の微かな線だけだった。

8.宇宙虫 ― 人の魂が天に還ってゆく。宇宙を超え、まるでホタルのような虫となって、空に吸い込まれてゆく。

 

 6.Holiday ― こんな思いをするのなら、彼女に会わなければ、好きにならなければ、幸せだった。朝焼け時から、何処にもいるはずない彼女を探す。彼女は生きているから夕暮れまでに見つけないといけない。夜は、死の世界だから。でも、痛みをこらえ、心の扉を開けた。もう彼女はいない。夢の中で、暖かな部屋に君を呼ぶことを思い浮かべるまで、そのことから目をそらし続けた。

9.ハートが帰らない ― 彼女の命はもう帰ってこない。微笑んで、ジュースでも一緒に飲んで、そんな春の日を想って、また眠る。眠る。夢の中でなら、彼女に会えるから。

10.俺の赤い星 ― 死は誰にでも一度だけ訪れる。彼女にも男にも。彼女は空に消えた。男は自殺を考える。他人の邪魔にならないで生きたのだから、死ぬときに迷惑をかけるくらい許してくれ。しかし、迷い続け明日を迎える。その繰り返し。どこに男の死に場所はあるのだろうか。

2.放浪カモメはどこまでも ― 悩み続けて5万年は経っただろうか。いつも明日を迎えれば、頬には涙があった。夕焼けの後には夜がある。死は夜の世界。そこならまた会えるだろう。彼女に伝えたいことがある。今世の群れからはぐれた、男というカモメが飛んで来たら受け止めてほしい。

 

 11.ホタル ― 自殺を考えていた男のもとに、彼女がまた現れた。そんなはずはない。幻に違いない。でも、もしも、そう考えるのが正しくても……。いや、それは幻だとわかっていても、せめて忘れたくはない。でも、幻は幻。

12.メモリーズ・カスタム ― 彼女のところに飛んでいけたら、と何度思っただろう。その彼女と再び会ったものの、嵐が過ぎ知った真実。やはり幽霊だった。でも、そんなことは無理をしてでも忘れよう。また、会えたのだから。

13.ジュテーム? ― 彼女がいるのは素敵だけどイケナイことだ。彼女は消えることも構わないという。果たしてどうするのが正しいのか。悩み疲れた。なぜ、また自分のもとに現れたのだろうと、男は悩み続ける。

 

14.アカネ ― 彼女は消えた。男は自殺を思いとどまった。彼女を想い、約束したことを守るために生きる。夕陽を待つということは、彼女が死んで、幽霊だったことを受け入れること。以前とは違う思いで、遠い未来を生きてゆく。

1.今 ― 君(=彼女)はもう消え、風となった。約束の渚を、風と二人歩く。自分は生きていくということを感じている。

 

 

大作になりました。三島か太宰に書かせたらどうなるのでしょう。個人的には瀬戸口に書いてもらいたいですね。(18禁になっちゃうからダメか)

さて、幽霊になった彼女は幸せだったのでしょうか。

 

まとめ

その後のスピッツは再び表舞台に姿を見せていきます。『スターゲイザー』は『スカーレット』以来にオリコン初登場1位。第二の黄金期なんて言う人もいますね。

私はこのアルバムが大好きです。スピッツの中でもナンバーワンだと思っていますし、すべてのアーティストの中でも1,2を争うほど好きです。

このアルバムまでは漂っている「性と死」は、次作『三日月ロック』以降、徐々に薄まっていきます。その代わり、サウンドの幅を広げて、カッコいいロックバンド・スピッツという道を開拓していきました。

そういう意味でもそれまでのデビューしてからのスピッツと、それ以降のスピッツの両方を兼ね備えたこのアルバム『ハヤブサ』は特別なものであると思うのです。(もちろん、今のスピッツも大好きです)

ある意味では思春期特有の美しさに似ていると思います。世界の中で自分は特別で何でもできる・何にでもなれる、だけどクラスの中なんていう狭い世界で悩んだりする卑屈さ。そのアンバランスなところに葛藤しつつも、未来に向けて生きていくうちに、そのうちいい思い出に代わっていく。

奇跡的なアルバムだったのは、スピッツのこれまでとこれからがしっかりと作品に出たからだったのでしょう。

 

 お疲れさまでした。最後までご覧になっていただきありがとうございました。