秋山瑞人『イリヤの空、UFOの夏』~「六月二十四日は、全世界的に、UFOの日だ」~

「おっくれてるぅ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!」

 

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出版年:2001-2003年

出版社:電撃文庫

著者:秋山瑞人

イラスト:駒都えーじ

巻数:全4巻

 

ライトノベルの傑作と聞かれて、皆さんはどんなタイトルを思い浮かべるでしょうか?

私は『イリヤの空、UFOの夏』です。

 

目次

その1

 第三種接近遭遇/ラブレター/正しい原チャリの盗み方-前編-/番外編・そんなことだから

その2

 正しい原チャリの盗み方-後編-/十八時四十七分三十二秒-前編-/十八時四十七分三十二秒-後編-/番外編・死体を洗え

その3

 無銭飲食列伝/水前寺応答せよ-前編-/水前寺応答せよ-後編-/番外編・ESPの冬

その4

 夏休みふたたび-前編-/夏休みふたたび-後編-/最後の道/南の島/エピローグ

 

 

熱狂的な信者を持つライトノベル・SF界をまたにかける男、秋山瑞人の名を天下に知らしめたこの作品『イリヤの空、UFOの夏』は、今なお6月24日になると聞こえる、不思議な叫び声の音頭を執り続けている。

彼らはこの日になると窓を開けて、

それからこう叫ぶ。

「おっくれてるぅ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!」

からり、とっ。

第1巻の記念すべき場面を真似して。

 

あらすじ

「6月24日は全世界的にUFOの日」新聞部部長・水前寺邦博の発言から浅羽直之の「UFOの夏」は始まった。当然のように夏休みはUFOが出るという裏山での張り込みに消費され、その最後の夜、浅羽はせめてもの想い出に学校のプールに忍び込んだ。驚いたことにプールには先客がいて、手首に金属の球体を埋め込んだその少女は「伊里野可奈」と名乗った…。おかしくて切なくて、どこか懐かしい…。ちょっと“変”な現代を舞台に、鬼才・秋山瑞人が描くボーイ・ミーツ・ガールストーリー、登場。

(出典:「BOOK」データベースより)

 

主な登場人物

浅羽直之 ― 主人公。園原中学校2年生。

伊里野加奈 ― 8月31日夜中に学校のプールで出会った少女。転校生。謎が多い。

須藤晶穂 ― 浅羽のクラスメイト兼同じ新聞部員。気が強い。

水前寺邦博 ― 3年生。園原電波新聞部部長。季節ごとに興味の対象が変わる男。

榎本 ― 謎の男。自称・伊里野のお兄さん。アジア一危険な男。

椎名真由美 ― 美人保健医。伊里野とも関係あり。

 

感想

秋山瑞人は天才だと思う。

理由①

ちゃんと完結させたのがこの作品と『猫の地球儀』と『鉄コミュニケイション』くらいしかない

理由②

 『E.G.コンバット』も『ミナミノミナミノ』も『DRAGONBUSTER』も続きが出なくてもめげないファンがいる。あと『空』と『海』はでたけど、『陸』が出ない

理由③

この10年で2冊も出している。すごい。EGFマダー?

 

と、おふざけはこのくらいにして。

イリヤの空、UFOの夏』は、「最高のライトノベルといえば?」という投票があったら、1位として上げられることの多い作品です。

先ほどから言っている秋山瑞人なる人物こそ、この作品の著者。そして、そのファンは「瑞っ子」と(自ら?)呼ばれています。私も「瑞っ子」です。

その遅筆さに放置を食らい、忘れかけたころに次の巻が出て、また次の餌を食卓の椅子に座って待ち続けるという、いわば修行ともいえる時代を再び過ごしています。

おっと、本題。

ライトノベルというと「ちょっとなー」と思う人も多いことでしょう。レジでは表紙を見せずに、裏側にして店員に渡す人もいるそうですね。

しかし、この作品はそれでもいいから読んでほしい作品です。

若い子からおっさんまで楽しめるはず。なぜなら、「誰しもが知っている」「大人になっても忘れることのできない」「思春期特有の高潔な精神と惰弱な現実」といった要素がふんだんに盛り込まれているからです。

ライトノベルは、いわば若い子のポルノだ。そんなイメージを持たれている方にも読んでみてほしいですね。そんなことをいっている人ほど、自分の学生時代のような胸きゅんにやられて、しまいには読み終わって魂が抜けたまま仕事に行く羽目になることでしょう。

文体は好き嫌いが別れるかもしれません。私は大好きですが、地の文よりもたくさんのシーンを楽しみたいという人には向かないかもしれません。逆に、ちょっとした諧謔や上手に誘導する文章が読みたい人にはおススメの作品です。

何度も読み直すたびに何度も発見があって、毎年読んでも苦痛に感じることはありません。年を取って読み直してみると、感情移入するところが変わっていたり、登場人物についてのとらえ方が変わったりして、それも楽しみの一つといえるでしょう。

 

自分が思うこの作品の素晴らしいところは、たくさんありすぎて語りつくせませんが、ここでは冒頭の書き出しを上げておきたいと思います。

 

めちゃくちゃ気持ちいいぞ、と誰かが言っていた。
だから、自分もやろうと決めた。
山ごもりからの帰り道、学校のプールに忍び込んで泳いでやろうと浅羽直之は思った。

――『イリヤの空、UFOの夏その1』

この3つの文章だけで、始まりがどんな場面、どんな場所なのかがはっきりとわかります。

場所は学校のプールですね。そして、「忍び込む」ということは、少なくとも昼ではなく、夜か早朝。ですが、「山ごもりからの帰り道」というところから、夜だろうと簡単に理解できます。

ぶっちゃけてしまえば、最初の一文だけでも出だしとしては十分な情報量ではあるんです。凡庸な作者であれば、それで終わらせてさっさと本文のシーン描写に移ることでしょう。

しかし、素晴らしいのは二文と三文。これがあることで、読者に感情移入と場面理解を挿せるようになっています。解説してみると、

 

最初の文は「伝聞」→何の?→「気持ちいいという状態」→「何が気持ちいい?」

次の文は「上記の理由から」→「決断」→「主人公の性格付け」→「で、何をするの?」

そして最後の文で「具体案」→「学校のプールに忍び込んで泳いでやろう」→「主人公の名前」

 

これだけで一気にその世界が見えてくるのです。そして、ここまで短い文で魅せられる作家もそう多くはないでしょう。

秋山瑞人は他の作品にも素晴らしい出だしと、シメが多いのが特徴的で、私なんかは『猫の地球儀』の最初の数ページだけで泣いたこともあるほどです。

 

ああ話がまとまらない。

 

とりあえず、まだ手に取ったことのない方は是非読んでみてほしい作品です。

あ、あと忘れてました。この作品は笹本祐一さんの『妖精作戦』の影響を受けています。『妖精作戦』は秋山先生以外にも、『涼宮ハルヒの憂鬱』で有名な谷川流、『第六大陸』の小川一水、『図書館戦争』の有川浩、といった面々にも影響を与えており、こちらも読んでみるとその影響を見て取れると思います。

特に『イリヤ』はかなりオマージュしているので、『イリヤ』を読んだ後に『妖精作戦』を読むととても面白いですよ。

あと、季節は夏とはいっても、9月から10月にかけてがメインです。プールは8月31日ですが、物語の期間的には2か月ほどです。これだけの期間の話なのに、この話から抽出できるモノはすさまじいものがあります。どれだけ構想を練ればこんな話をかけるのだろう。驚きです。

ネタバレはもう一つ投稿するそっちの記事で書く予定なので、こちらはあっさりとしたところで終わらせたいと思います。

最後までありがとうございました。