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堂場瞬一 『チーム』

www.amazon.co.jp

 

出版年:2008年

出版社:実業之日本社

 

堂場瞬一の『チーム』は、以前から読んでみたいと思っていた本でした。中古で安かったのでおもわず購入。400ページを超える本でしたが、ついつい一気に読んでしまうくらい面白かったです。

 

目次

 

第一部 敗れし者

第二部 敗れざる者

エピローグ

 対談 堂場瞬一×中村秀昭

 

内容紹介

毎年1月2日、3日に開催される箱根駅伝。各大学の誇りと伝統をかけて争われる国民的行事です。その舞台に参加するためには、前大会でシードを獲得する、もしくは10月に開催される予選会を通過する必要があります。記念大会を除けば毎年出場できるのは、シード校と予選会通過校、合わせて20校。

しかし、実際に出場するのは21チーム。残りの1チームとは「関東学連選抜」です。これは予選会で辛くも切符を逃した大学の選手を選出したチームで、各校から一人ずつ、いわばチームの主力選手が選ばれます。監督は予選会で落選したチームの中から最上位だった大学の監督が指揮を執ります。

この本の主人公は、その関東学連選抜「チーム」となります。各校の誇りと伝統がない寄せ集め。その中で選手・監督たちは、何のために、どのようにして、箱根駅伝を闘っていくのでしょうか。陸上競技を描いた傑作です。

 

登場人物

浦大地 ― 城南大の4年生で主将。予選会で城南大は32年間の連続出場が途切れてしまう。浦は学連選抜のキャプテンに選ばれるが、チームワークや昨年の10区での失敗の記憶、古傷の再発といった問題が彼に襲い掛かる。

吉池幸三 ― 美浜大の監督。名監督として名選手を多数指導してきたが、箱根駅伝への出場は叶わなかった。関東学連選抜の監督を務め、チームの目標を「1位」とする。

山城悟 ― 東京体育大の4年生でエース。予選会で留学生より速い記録で1位となった。実力は折り紙付きで、箱根駅伝に3回出場し全てで区間新を叩きだした。性格に少々難があり、チーム内で不和の元凶となる。

門脇亮輔 ― 港学院大の4年生。卒業後は先生になり陸上を続けるかは考えていない。浦の高校時代のチームメイトで飄々としている。学連チームではそこまで意欲的ではない。

朝倉功 ― 東都大の1年生。大学入学後に大きく力を伸ばし、関東学連選抜では2番目に予選会でゴールした。

青木武 ― 城南大の4年生で主務。怪我で選手としては走れなくなり、裏でチームを支える。

 

 

現実の変更点

制度としては2017年現在とは異なる点がいくつかあります。

①名称が「関東学連選抜」→「関東学生連合」

②オープン参加となり、順位が付かない(個人の記録は残る)

実は以前は一つの大学から最大二人選出されたこともありました。しかし、今ではまた一校で一人までとなりました。

現実では関東学連選抜はどうだったのでしょうか。実は2008年に4位を記録しています。この時の監督が青山学院の原晋監督。コーチには明治大学の西弘美監督が就任(正直、明治が予選会落ちしてるほうが不思議だった)。

おそらく堂場さんはこれをかなり参考にしていると思います。結果は全く異なる過程で描かれていますが、チームというものを考える際に役立ったのではないでしょうか。

 

 

感想

さて、この本についてですが、最後まですらすらと読めるくらい読みやすいつくりになっています。登場人物を会話文を中心に描いているので、会話文がかなり多め。若い人にも勧めやすいですね。

中身としては等身大の大学生がよく描かれていると思います。その中での集団としての葛藤と、主人公の浦の個人的な葛藤が実に見事に配置されています。

また、登場人物の色がとても分かりやすいです。会話文中心の場合、人物がどうもカテゴリで分けたような、つまり、妙なキャラ付けによって人物を描いていくことが多いのです。しかし、単なるキャラ付けではなく、陸上に打ち込む普通の大学生がしっかり描かれていて好印象です。

トーリーは正直、先が読める作りとなっています。ミステリーでもないし、そこは気にならないと思います。求められているリアリティはそういう方向ではなく、しっかりと競技に向けられているということですね。

スポーツをしている人というのはやはり何か矜持を持っています。特に山城というキャラクターはそれが色濃く表れていると著者も語っています。ただ、それは山城以外のキャラクターにもしっかりと描かれていて、浦は昨年のリベンジ、朝倉は走っているときの描写、門脇は競技とチームに対する想い、などからそういった部分が見えてきます。

 

ただ、気になったのは第一人称と第三人称の切り替えが結構緩いところと、一区での記録です。

一人称三人称の切り替えというのはあくまでも誰かが決めたルールなので、正解はないとは思いますが、地の文でそれがスムーズにいかない場合、自分の場合、小説というよりドキュメンタリーを追っている気分になります。まあ、会話文が多いこともそう思ってしまう理由の一つでしょう。ただ、読みやすさという点ではこの試みは成功しています。

もっと気になったのはこっち。記録についてです。さすがに1区の記録は早すぎです。現実では佐藤悠基東海大日清食品)が記録した1時間1分6秒。歴代の記録を見ても1時間1分台は2017年現在で9人しかいないのです。個々の名前をみても27分台~28分代前半の選手たちなので、ちょっとここでリアリティが薄まってしまいました。

 

そういえば山城はどうも佐藤悠基と被りますね。3年連続区間新。最後の年にオリンピックランナー早稲田の竹澤に負けましたが、それでも好記録。山城は4年連続区間新。すごい選手です。

悲しいのはこの小説で名門として描かれている中央大がついに出場記録が途切れたことですね。この小説で描かれている「何のために走るのか」、その最たる「チームの伝統を背負って走ること」がいかに大切だったのか、逆説的に証明してしまいました。

持論になりますが、伝統というのは革新の連続である、と私は考えています。日本の伝統工芸や伝統芸能などは歴史を追ってみると、革新をして何とか生き残ってきました。それがなされなくなった時、伝統はどんどん重荷としての役割しか演じないでしょう。伝統という言葉を耳にする機会が増えてきたら、黄色信号の証のように思います。

伝統という言葉は貯金しておくものなんですね。下ろし始めたら危ない。同様のものとしては学歴なんてものも挙げられるでしょう。学歴なんかも武器というよりは、盾なんだと思います。

 

話がずれてしまいましたが、この『チーム』はおススメの一冊です。あまり活字に触れない人でもとても読みやすいと思います。是非手に取ってみてはいかかでしょう。

 

最後までご覧くださりありがとうございました。